「エリーゼ、お前との婚約は今日までだ。婚約を破棄させてもらう!」
 私の名は、ディオーヌ・エリーゼ。この国で最も力のある公爵家の長女だ。
 今、目の前で私に婚約破棄を宣言したのは、皇太子のアンドリュー殿下。
 この国で、最も王位に遠い王子だ。
 姿だけは見目麗しい。まさに王子という美しさはある。
「理由をお聞かせ願えますか?」
「はっ。理由、だと?そもそも俺はお前のことが好きじゃない」
 はい。私もです。
 それでも、諸事情により、婚約させられ、仕方なく結婚するものだと我慢しておりました。
「その、どこか人を馬鹿にしたような目、反吐が出る」
 すいません、ちょっと馬鹿にされるような行為を控えてくだされば私ももう少し違う目で見られたと思うんですよ。
「取り澄ましたような表情にもうんざりだ」
 いやいや、感情を隠すために取り澄ました顔をするしかないんです。
 本当はもっと自然に微笑めるようなできごとがあればいいのですけど。イラっとすることばかりで。
「そして何より、人間として同じ学園に通う生徒を差別するその心が許せない」
 いや、差別じゃなくて区別でしょうが!
 貴族クラスと商家クラスと庶民特待生クラスじゃ学ぶことも違うんだから。
 そして、王族は特別。誰とでもなれ合うわけには行かないんですよ。その婚約者たる私にだって、線引きをして区別して接する必要があるんですよ。
 じゃないと、学生時代の人間関係を、人の上に立つ立場になっても引きずって「賄賂、友達贔屓」などなど色々と腐敗の元となってしまうんですから。
 っていうか、明らかに差別してるの、むしろ殿下の方ですよね?
 気に入った人間と気に入らない人間という、単純な理由で。
 自分に耳の痛い意見をする人の言葉には「僕は皇太子だぞ、その生意気な口を閉じろ。どうなっても知らないぞ」と言う。