きっと俺がその気持ちを知ってしまったことさえ、知らないだろう。
 いや、知らないままのほうがいい。……そう思っている自分がどこかにいるのは、確かだ。

「朝ごはん、出来たので食べましょう?」

「ああ。すぐ行く」
   
 そう返事をして、シャツに袖を通す。このシャツも紅音がアイロンをかけてくれているおかげでシワ一つない。
 洗濯する時も俺のシャツやスラックスを分けて洗ってくれている。シワになりにくいコースで洗ってくれているようで、いつもキレイな形のワイシャツになっている。

 左手の手首に腕時計をつけて、ネクタイを締める。 紅音は結婚した当初、俺のスーツ姿を見てカッコイイと言ってくれた。
 【爽太さんは世界一、スーツの似合う人ですね】と言って笑っていた。

 そんな日々ももう残り9ヶ月で終わる。あの時のことがなんだか、懐かしく感じる。 
 紅音という妻に、俺は感謝しかない。こうして毎日俺のために料理を作ってくれて、アイロンをかけてくれて……。すぐに風呂に入れるように沸かしておいてくれる。

「……よし」

 身支度を済ませ、リビングへと向かった。