眼鏡の奥の目を細め、ダイニングテーブルへと

促してくれる。僕は頭を上げ、用意してきた

菓子折を差し出すと、促されるまま、弥凪の

隣の席に腰かけた。

全員がテーブルにつき、食事が始まると、弥凪

の母親が和やかなムードを作ってくれた。

「羽柴さんはカレーがお好きなんでしょう?

弥凪がカレー味の料理をいくつか作ったんで

すよ。お口に合うかしら?」

その言葉に豪華な食卓を見れば、カレー風味

のラタトゥイユやクリームパスタ、カレー味

のポテトサラダが並んでいる。その他にも、

握り寿司の桶盛りや唐揚げ、春巻きなんかも

あって、僕はさっそく弥凪お手製ポテトサラ

ダを口にしながら「とても美味しいです」と、

満面の笑みで頷いた。

隣に座る弥凪は、時折、母親が交えてくれる

手話と口話とで、この場の会話を理解して

いるようだった。母に向け、手話で語りかける

弥凪の薬指には、きらりとダイヤが輝いている。

その指輪に目を留め、口元を綻ばせていると、

母親がビールのお代わりを注いでくれた。

「それにしても、素敵なお家ですね。僕は

実家の方もマンション暮らしなので、こんな

広いお宅にお邪魔するのは初めてです」

僕は身を乗り出してビールを注いでくれた母親

に思ったままを口にすると、なみなみと注がれ

たビールを喉に流し込んだ。

母親がはにかんで、父親と顔を見合わせる。

「そうですか。この家を建ててからもう15年

になるんですけど、主人は警視庁の副総監を

務めていることもあって、あまり家にはい

ないし、最近は娘もデートで家を空けることが

多いから、いつもガランとしているんですよ」

「……っ!?」

僕は飲んでいたビールを思わず吹き出しそうに

なり、口元を押さえた。



いま、すごいワードが聞こえた気がしたが……



空耳だろうか?えっ、副総監???って、

あの刑事ドラマでよく見る、警察のお偉いさん?



目を白黒させながら、父親と母親の顔を交互

に見ると、母親は「あら」と、頬に手をあてて、

小首を傾げた。

「もしかして、弥凪から何も聞いていませんか?

あそこに家族写真が飾ってあるの見えますで

しょう?弥凪の成人式の時のものなんですけど」

やんわりとそう言って、テレビ横の壁の辺りを

見やった母親に、「すみません。僕は何も……」

と、首を振る。視線を辿れば、確かに、そこに

は、振袖を着た弥凪を真ん中に挟み、警察服

に身を包んだ父親と母親が写り込んでいた。

緊張していたとは言え、まったく気付かな

かった。

僕は、隣できょとん、としている弥凪の足を、

テーブルの下で突いてやりたい衝動を堪え

ながら、斜め前に座っている父親を盗み見た。