(わたしも、純のお嫁さんになりたい。

だから、プロポーズしてくれて、すごく

嬉しかった。目が見えなくても、大丈夫。

わたしたちは、きっと、大丈夫)



-----彼女の言葉は、指文字だった。



一文字ずつ、形作った指文字を僕の手に触れ

させ、想いを伝えてゆく。僕は、暗闇の中で

彼女の言葉を拾い、ヘレン・ケラー女史と

サリバン先生がそうしたように、彼女の

一語一句を受け取った。

それは、目が見えなくても、耳が聞こえなく

ても、想いは伝えられるのだという、彼女の

メッセージだった。

僕はゆっくりと目を開き、彼女を見つめた。

白いアーチの下で、彼女が微笑んでいる。

その眼差しは、愛しているのだと、言葉以上

に語っていた。

「ありがとう、弥凪」

僕はそう口にすると、鞄から取り出した指輪を、

彼女の薬指に嵌めた。ほんの少し、サイズが

大きかったらしい指輪が、彼女の左手を飾る。

やはり、驚いたように彼女はその指輪を見つめ

たが、まもなく破顔した。

(ありがとう。すごく、キレイ)

陽光を浴びた白とピンクのダイヤが、きらきらと

永遠の光を放っている。

顔の前に手をかざし、その輝きを見つめる弥凪

はとても嬉しそうで、僕は満足げに目を細めた。



-----その時だった。



斜め後ろからパチパチと手を叩く音がして、

僕は振り返った。

「……?」

不思議に思いその音の主を見れば、園内を

散歩していたらしい老夫婦が、僕たちに拍手

を送ってくれている。

「お幸せにね」

にこやかな笑みを浮かべ、お婆さんがそう口に

すると、周囲を歩いていた他の人たちも、足を

止め、僕たちに拍手を送ってくれた。

「おめでとう」

「お幸せに!」

僕たちは顔を見合わせると、彼らを向き、

恥じらいながら頭を下げた。僕はガリガリと

頭を掻き、弥凪の頬は赤く染まっている。



まさか、こんな祝福を受けられるとは……


この場所を選んだときは思いも寄らなかった

けれど、思いも寄らないことばかり起こるのが、

人生なのかも知れない。

僕たちは手を繋ぎ、もう一度頭を下げると、

肩を竦め、二人で笑い合ったのだった。