その夜、街は暗闇だった。

月は見えず、真っ暗なまま。


唯一聞こえるのは男達が一人の少年を壊している音だけ。なんて醜い争い。


複数で一人を叩く行為は許されない。


勝負というものはタイマンや組同士による喧嘩だ。


この行為はそのどちらでもない。
いわば、ただのイジメ。


少年を助ける仲間はここにはいない。


何故なら少年は弱く、敵のテリトリーに1人で侵入していたから。


「オラァ、死ねや!」

「俺たちのテリトリーに入って無傷で帰れると思うな!!」


「例のクスリは持ってきたか?」

「もちろんです!兄貴に言われたとおり持ってきました!!」


少年はその場で数人に押さえつけられた。


「ごめんなさい。
それだけは……やめてください!」

「謝罪で許してもらえるならサツはいらねーんだよ」


「これでお前も化け物の仲間入りだな」

「……っ!!」


少年は、ある注射を打たれた。


紅い月(ブラッドムーン)


裏社会では今や簡単に手に入る代物。


その副作用は言うまでもなく……。


タイマやマヤクなど比べものにならない。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


数分も経たないうちに少年は雄叫びをあげる。


その場で何度も転げまわり、まわりに助けを求め懇願する。だが、その手を取る者は誰もいない。