「瑞希さん、あなたも少しは休んだら?」
「いや、俺はいい。」
彼は休んでいるのだろう。
私がいない昼間も街を守り、夜もこうして私と一緒にいることが多い。
明らかに休息が足りない。
「夜は誰の時間?」
私は目に力を込めて瑞希さんに視線を送る。
「ハハッ…。わかったからそう睨むなよ。休めばいいんだろ?」
「分かればよろしい。」
「春陽も少し人に意見を言えるようになったんだな。」
「え…?」
「onyxで初めてあった時はいかにも他人行儀でゴテゴテの敬語で話してた春陽が、俺を睨みつけるまでになるなんてな。」
「それは心配して!」
「心配してくれてるのか?」
瑞希さんはニヤリと不気味な笑みを浮かべながら私をおちょくってきた。
それが少し腹立たしくはあったけど、なんだか恥ずかしくなって目を伏せた。
「そりゃ…少しは心配くらいするよ…。」
顔が徐々に赤くなるのを感じ、プイッと顔を逸らす。
「なぁ、なんでそんな顔赤いの?」
なんで?なんでだろ…。
「赤くないし、そんなの知らない。」
分からない。この感情は何?
知らない感情が私の中を支配し落ち着かない。
「その感情の正体、教えてやろうか?」
「何よ…。」
「…。やっぱ教えねぇ。」
「はぁ?」
「教えるのやめた。」
なんて無責任な…。
いいだけ期待させといて…。
「でも一つだけ。」
「何?」
「たぶん俺も春陽に全く同じ感情を抱いてるよ。」
「え…?」
「じゃ、俺もちょっと寝てくるわ。」
そう言って出ていった瑞希さんの顔は心做しか赤く染っている気がした。
気のせいかな?
同じ感情?
尚更よく分からなくなった。
そういえばonyxで“ハルちゃんのことは大事に想ってると思うよ”とマスターが言っていたのを思い出した。
確かに私も瑞希さんのことは大事に思ってる。
それと同じ感情ってこと?
ハァ…。もう考えるのやめよう。
私は一人になり、ただひたすら何事も起こらないことを祈り続けた。