「それが、春陽の望みなのか?」


「うん。」


「望まないお前が望むことを俺は裏切れないな…。」


何かひとつでも望みを叶えてやれるなら、俺はそうするしか春陽を笑顔にできる方法を見つけられなかった。


情けないな…。


「約束…な。」


「うん、約束…。」


春陽が差し出した小指に俺の小指を絡める。


その手は冷たくて、か弱く感じた。


こんなに小さい手で喧嘩してるんだな。


「春陽って大人びてるくせに、こういうことするんだな。」


「え?」


「指切りげんまん。俺小学生以来だぞ?」


「ヘヘヘッ…。でも、私は初めてやった。」


初めての指切り。


その初めてを俺が。


少し恥ずかしげに微笑む彼女の顔に、その後一筋の涙が流れた。


「泣くな。安心しろ。昼間は俺が街を守ってやる。」


なんの涙なのか、そんなことはどうでもいい。


ただ、守ってやりたい。


街も春陽も、春陽の笑顔も。


席から立ち、春陽の体をそっと抱き寄せた。


「大丈夫だ。春陽は大丈夫だ。」


そっと抱きしめた体は少し震えていて、どんなに勇気をだして打ち明けてくれたのかを思い知らされる。


「うん。ありがとう…。昼間は任せた…。」


少しだけ俺に擦り寄ってきた春陽は、さっきより暖かく、俺は抱きしめる手を少し強めた。


大切な人が腕の中にいる。


そう思うと少し顔が火照るのを感じた。


この腕の中の小さな存在を守り抜く。


そう心に決めて、そっとその体を離した。


心做しか春陽の顔も火照っており、思わず顔を背けた。



その後、公弥さんの視線が目に入り、何となく気まずい空気になったが、その場はお開きとなり騒がしい心臓を抑えて、俺はそのまま明日に備えるために倉庫に戻った。


俺が店を出るタイミングで、公弥さんも店仕舞いを済ませて俺と一緒に店を出た。


「公弥さん。ひとつ、いいですか?」


「なんだ?」


「明日、春陽は多分無茶すると思います。もしそうなったら春陽を止めてください。」


「わかった。その代わり、守れよ。」


「はい。」


それだけの短い会話を後に、無言でそれぞれの帰路に着いた。