「いえ、もうこれ以上マスターに甘える訳にはいきません。病気を持って生まれて、行くあてもない私を拾ってくれて住む場所も与えてくれた。病気のせいで諦めていた仕事も経験させてもらいました。本当に感謝しています。」


「ハルちゃん…。」


「心配しないでください。行く宛てはなくてもマスターに拾われる前もそれなりに生きてこれたのできっとどうにかなります。もう決めたことです。勝手ですみません。」


「ハルちゃんは意外と頑固だからな…。」


決心した春陽は自分の意見を曲げることなく、ついには公弥さんが折れた。


公弥さんと向き合っていた春陽は、その後俺に視線を移し、話し始めた。


「瑞希さん。私を助けないで。」


「…は?」


「私の犠牲にならないで。」


「どういう意味だ?」


助けないで?犠牲にならないで?

どういう意図を持って俺にこう話しているのか


「瑞希さんは、これから先、明るい太陽の下で生きていく。それに引替え私は真っ暗な空の下で少ししか生きられない。それに、私の年齢でこんなに動けるなんてすごい珍しい症例なんだよ?私と同い年ぐらいのXP患者は一人で歩けない人も多いの。
私は、瑞希さんの時間を1秒でも奪いたくはない。だから、もし、私に何があったとしても私に背を向けて進んで。約束してくれる?」


切なげに表情を浮かべつつ、最後には必死に作った笑顔を俺に向ける。


どうにか、春陽を太陽の下に連れ出してみたい。


でもそれは叶わない。


俺が治療法を見つけ出す。
そんなことが言えたなら格好がつくが、そんな無責任なことも言えない。


希望が辛いと話した春陽が、俺には望むことがある。