「マスター。出来たので鍋に蓋しておきますね。また何かあったら言ってください。じゃあ行ってきます。」


「ありがとう。うん、気をつけて。」


パーカーのフードを被り直し、外に続く扉を開けた。


この店は裏通りにあり、1番賑わう表通りからは少し離れている。


この表通りから裏通りに続く道が1番トラブルが多い。


基本的に、普通にお酒を飲んで楽しみたいだけの人は表通り以外に用事はないから裏通りまで迷い込んでは来ない。


表通りは目が痛くなるほど明るいが、1本道を間違えると景色がまるで異なる。


薄暗いこの道は隠さなければいけない行為をするには適している。


だから私は表通りよりも裏通り付近を中心にいつも散策する。


今日も早くもトラブル発見だ。


「おい兄ちゃん。見ねぇ顔だな。」


「なーんか良さそうなもの持ってんじゃねぇか。ちょっと見せろよ。いいだろ?」


「や、やめてください…っ。」


20歳そこそこのお兄さんにガラの悪い2人組が絡んでいる。


2人がパクろうとしているのはブランドの財布だ。中身は見えないがきっとそれなりに入っているだろう。


なんでこんな好青年っぽい人がこんなところに?連れ込まれたのか?


まぁ、そんなことはどうでもいいか。


そもそもお金が無いなら遊ぶ資格なんてないのに、なんで人から奪おうとするんだろう。


こういうことをしている人を見ると虫唾が走る。


盗んだお金で遊んで楽しいのだろうか。


理解したくもないが意味不明だ。


「ねぇ。それ返してあげなよ。」


「なんだよお前。口出してくんじゃねぇよ。それともなにか。お前の方がいいもんくれんのか?」


「あげないよ。お前ら2人にもの貰う資格なんてない。」


私はゆったりとした歩みで2人組に近づき、呆気なく財布を奪い返してお兄さんに返した。


「何しやがんだテメェ。おちょくってんのか?」


2人の視線がお兄さんから完全に私に向いた。


私はお兄さんだけに分かるように合図し、お兄さんをこの場から遠ざけた。


「なに?私とやり合いたいの?私が誰か、わかって言ってるんだよね?」


「あぁもちろん。月下の少女って名前で呼ばれてるが、お前そんなヒョロヒョロでほんとに強いのか?信じらんねぇな。しかも俺らは2人だぜ?逃げるなら今のうちだぞ。」


ガハハハハと品の欠けらもなく2人は笑い私をバカにしたような目つきで見下ろしてくる。