それから数週間後、月下の少女が公弥さんのところに住むことになったと聞き、何度か店に足を運ぼうと思ったが結局行けずじまい。


俺の誕生日パーティーで店のエプロン姿の春陽を見た時はまた心が騒がしくなるのを感じた。


前はパーカーのフードで少ししか見えなかった顔もしっかり確認でき、思っていたよりも整った顔立ちをしていた。


あの時のような笑顔はなく、営業スマイルを浮かべるのみ。


強引に名前を呼び捨てにすることになったが、表情は硬さが残る。


飲みの席に春陽を巻き込んだは良いが、何を話せばいいのかも分からず結局春陽は自分の部屋に帰ってしまった。


俺はそれからも春陽のことばかり考えていたが、どんちゃん騒ぎを自分なりに楽しんだ。


俺以外が酔いつぶれるか帰宅した後、俺は春陽が片付けに来るのを待ち伏せした。


ストーカーか?


そんな考えも頭をよぎったが、公弥さん曰く、週に一度しか店には立たせてないと聞く。


それなら今日確実に話をしなくては次はいつ機会が来るか分からない。


俺はそう思い、ひたすら春陽が来るのを待った。


寝息といびき、時折寝言のみが響く店内に、暫くすると階段を上る足音が聞こえてきた。


真っ暗な店内に電気が着くと、そこには驚いた表情の春陽が立っていた。


あ、その驚いた顔、今日見た中で一番自然体だ。


俺はそんなことを考えながらも、春陽との会話を重ねる。


まずは春陽が月下の少女であるという事実を確かめ、関東連合に月下の少女を勧誘した。


それはあっさり断られたが想定内。


俺はただ春陽との関係を作っていきたい。


関東連合に入ってくれるなら万々歳だが、そう簡単にはいかないよな。


名前を呼び捨てにする時以上に強引に、春陽を倉庫に招くことにした。


これは拒否されないよう甘い蜜を吐き、答えを待たず店の外に出た。


来るのか来ないかは春陽次第。


でも、“見たことない景色”という単語に明らかに反応していた。


俺はまた会えることを願いつつ、ソワソワした心を落ち着かせながら帰路に着いたのだった…。