マリオネット★クライシス


ふっと効果音付きで、男は空を(天井を)仰いだ。

「仕方ないよね。ぼくのハニーはお空に行っちゃったんだから。グッバイ、ハニー……」

オレはあんたをグッバイしたいよ、と呆れつつ、それでも賢明にも口をつぐんでいた。
ボーナスとして一台くらい買ってやらないとな、と思うくらいには責任を感じていたのだ。
あの事故は、ジェイにも非があるから。


「あのブタゴリラ、あぁこの響き、懐かしいって思わない? 思わないか、ジェイは若いもんねぇ。とにかくさ、もう大変だったんだからね、あの後! ブタゴリラにやいやい責められて、警察に説明して……でももちろん、『レコーディングの最中に消えた歌手を探していたら本人がビルから出てきて、それに気を取られて前見てませんでした』とは言わなかったよ。マネージャーとして、タレントを守るのは当たり前だからね!」

えっへん、と胸を張りたいのだろうか。
一応これでも彼はハーバード卒のエリートなのだ。人は見かけによらないものである。
こんな男が自分のマネージャーってどうなんだろうとは思うが、アジアでのマネジメントをセイントに頼んでいる以上これからも付き合いは続くのだろう。

なにはともあれ、彼――永井豊(ながいゆたか)が栞のマネージャー・猪熊を引き留めておいてくれたおかげで、あの日2人は逃げることができたわけで……やはりボーナスは出そう、と思うジェイだった。