「ふぁ、ファ……っっ! ま、マジか……すげぇ! 本物っ!?」
大興奮のヒナタ君に改めて聞くまでもない。
今わたしを抱きしめているのは……
「はな、して……」
強張ったわたしの肩を抱いたまま、その人はわたしの頭のてっぺんに唇を落とし、頬を寄せてくる。
「嫌だ。約束しただろ、ずっとそばにいるって」
「っ……」
蕩けるような甘い台詞と仕草に、こっちはもう大混乱だ。
どういうつもり?
もう撮影は終わったんでしょ? わたしは用済みでしょ?
なんでそんなこと言うの?
これも、シナリオ通りの台詞?
どこかでカメラが回ってるの?
「っ、さ最初から仕事だって、言ってくれればよかったのに。そうしたらもっと完璧に演技、したのに」
動揺を隠すように早口で言うと、重たいため息が聞こえた。
「違う。ちゃんと説明させて。あのMVはもともと――」
「ファントムさんっ! ボク、ブループリンスってグループで歌ってます、柏木ヒナタっていうんですけど、あなたの大ファンでっ! あのよかったら今度……」
う、まずい。
ヒナタ君、声大きすぎ!
みんなの視線が、次第にこっちに集まり始めるのがわかった。
「ねぇあれ、ファントムじゃない!?」
「うそ、一緒にいるの、MVの女の子だ!」
「ファントムとミューズのツーショットだぞ! カメラ回せ!!」
「おいっ早くしろ!」
どこから湧いて来たのか、マスコミ関係っぽい人たちも集まり出してしまう。
これは本気でヤバいかも、って。
忙しく目で逃げ道を探しながら、じり、と後ずさる……と、図った様に全体が黒くコーティングされた一台のバンが傍らに停車した。
「仕事のオファーだったら、事務所通してくれ」
低い声でヒナタ君へ言い放ったジェイに背中を押される。
「ジェイっちょ、ちょっと……」
わたしは一瞬で、その後部座席に押し込まれた。


