「それ、反抗期ってだけ?それともー」

「違う」

那由多が言いかけた言葉を遮って、私は話す

「反抗期じゃない。私は...5歳の時に、絶縁したくなるくらい嫌いになったの。」

「それは、聞いてもいいの?」

「別に、遠慮されることじゃない。聞かれたら、普通に答える。」

「そっか、それじゃあ普通に聞くわ。5歳の時、何があったの?」

「...父は、私を医者にしたかったの。女性で凄腕の医者はいないから、私をそれにしたかったの。自分が...偉い医者だから。」

「希空の親って...」

「夜霧先生。そう世間から親しまれてる。実際は...ただのサイコパス。5歳の娘に人の死体を見せて、死体の体を解剖している所を近くで見せられたの。そこから、私の何かが壊れた。人間に対して何も思わなくなって、感情が消えた。そんな私を心配する訳でもなく実験対象として父は私を監視している。人のせいにするのなら、私がこうなったのは父のせい。」

「ちょ、ちょっと待ってもらっていい?」

「どうしたの?」

「5歳で死体を見せられたの?」

「体の全部、隅々までね。」

「解剖している所も?」

「テレビじゃないからモザイクもない。それに父は、よく見えるようにと切り開いた体の中身を私の顔寸前まで近づけてきて。あんなに父を呪ったことはない。」

「5歳でそれは...キツすぎるだろ。俺なら死にたくなる。」

「そう、だから私はずっと死について考えてるの。死ぬってどういうことなんだろう、死んだらどこに行くんだろう。何を考えて死んだんだろう。何度も何度も考えて、何度も何度も死のうと思った。...死ななかったのは、姉妹のおかげ。特に花陽...知ってる?A組の、陽徳花陽。」

「あぁ、知ってる。有名人だろ。」

「...そうなんだ。...花陽が、私が死のうと思う度に止めるの。『希空ちゃんは私の大事なお姉ちゃんだから、絶対死なないで。希空ちゃんが死んだらあたしは生きていけない。』なんて言われて。お人好しすぎて困るくらいに、花陽は良い子。だから私は死ねないの。そのせいで、死について考えて頭がおかしくなったのかもしれないけど。」