「昔話をしてもいい?」

「どうぞ」

「普段こういう話、人に全くしないんだけど...俺には、音瀬彼方っていう双子の兄がいるんだ。彼方は...俺と比べ物にならないくらい出来る兄でさ、音楽センスはバッチリ。人との付き合いもすっごく上手で、いつも比べられて育ってきた。彼方は家族とか、友達とか人が大好きなんだけど、俺は大嫌い。音瀬那由多っていう存在に俺を産み落とした世界が、大嫌い。」

「...そう。」

こういう話の場合、なんて声をかけたらいいのかわからないけど、この話はわかる。

「音瀬那由多...貴方は音瀬彼方と比べられるのが嫌いなんでしょ?」

「うん、そうだよ。」

「じゃあなんで、自分自身で比べてしまっているの?」

「...え」

音瀬那由多は驚いた顔で固まった。

「話を聞いていたら簡単なこと。自分で兄と比べられるのが嫌と言っている割には、自分で兄と比べている。」

「...ふふっ」

てっきり怒ると思っていたのに、

目の前の音瀬那由多は自嘲気味に笑っている。

「確かに、そうかもなぁ。誰にも言わなかったから、気づかなかったのかも。ううん、俺が、彼方の嫌いな理由を見つけたかっただけかな。」