「悪い」

「いいよ……何回か言われたことあるから……──────────あ……」



ツンと不貞腐れながらトコトコ歩いていた足が、突然、間の抜けた声とともにピタリと止まる。

急にどうしたんだ?

なにか思い出したような感じだったけど……。

俺もつられて足を止め、桜川を見つめた。

「えっと……今日寮ってだれか先に帰ってるっけ?」

すると突然、あからさまに歯切れが悪くなった桜川。

苦笑いのような作り笑いのような微妙な顔を浮かべて、俺を見上げている。

一体それはどういう表情なんだ?

桜川にしては珍しく、何を考えてるのかがサッパリだ。