「私なんて小さい頃のことあんまり覚えてないから、そうやって小さい頃に抱いた想いをずっと大事にしてるの、ホントに素敵なことだと思う」

安心して欲しい……不安を拭いたい。

だけど、この言葉は気休めじゃなくて、全部私の本心だ。

「……ありがと」

優羅くんは少しの沈黙の後ボソッとそう呟くと、また顔を腕の中へ隠してしまった。

あ……もしかして、また寝るのかな?

春風がふわふわと優羅くんの赤髪を揺らす。

相変わらずマイペースだ……。

私はイスの背もたれに体を預けて、サンルームのガラス越しに真っ青の晴れ渡った空を見上げる。

雅さんも優羅くんも……こんなに想ってる人がいるのに。

この婚約が二人にとってどんなに切なくて、どんなに悲しくて、どんなに苦しいことか……。

こんなの……だれも幸せになれないよ──────────