「泉田先生、棒読みじゃなくて僕らみたいに、もっと感情を入れて、慌てたり苛立ってくださいよ」

「私さ、学生時代ベンチャー部だったから」
「それと棒読みと、まったく接点がないです。なんの関係もないです」

「うちの祖父が聴いてたのよ、よく覚えてる。テケテケテケテケテケテケテケ」

「それベンチャーズですよ、適当だなあ。名前を間違えてて、それで、よく覚えてるって言えましたね」

「演劇部にも在籍してたよ」

「泉田先生も海知先生も話がズレてます。だいぶやりましたから、みんなの集中力が途切れましたね。今日は、これくらいにしましょう」
 美丘さんが両手をぱんぱん叩く勢いで、会話を止めた。

「教えてくださって、ありがとうございます」
 応対をしたりメモしたり、たくさん吸収した。

「お疲れさん。まだ、いろいろな状況があるから、またシミュレーションしよう」

「星川さんは性格的に物怖じしないから、私がいなくても実地でいけそうね」

「いいえ、それは、まだ。美丘さん、まだまだ教えてください」
 すがるような目で、美丘さんに助けを求めているの、わかって。

「わかる範囲で、星川さんが説明してもかまわないわ。わからないことは、院長や泉田先生や海知先生に電話を代わって」

 きっと、私は不安そうな顔をしていたのかも。
 美丘さんが、具体的に説明してくれる。

「美丘さんのおっしゃる通りだ。することは、こんなにシンプルだから、安心して大丈夫だよ」

 安心します。海知先生が言ってくれることなら、どんな言葉も私の安心の素。

「そもそも、オーナーは、院長や先生に電話を代わってくれって言うからさ。星川さんに病状説明を求めることは、まずない」

 泉田先生の言葉に、三人の動きが止まった。

「それもそうですね」
「泉田先生、それ先に言ってくださいよ」

 納得する美丘さんと、子どもみたいに口をとがらせて抗議する可愛い海知先生。

 泉田先生のおっしゃる通り、いきなりオーナーが私に患畜の病状を聞いてくることは、考えにくい。

「みなさん、お付き合いいただきありがとうございます」
 和やかな笑いに包まれたところで、お礼を言った。

「こちらこそ、ありがとう。教えることで改めて勉強になったわ」

「私は、クレイマーのオーナーになった気分」

「あの棒読みでよくそう思えますね、びっくりします。さてと、午後もがんばりますか」
 首を回しながら、海知先生が伸びをした。

「さあ、星川さん、私たちは診察室に移動しましょう」
 私たちには待っているぞ。

 調剤を郵送するために郵便局に行く準備や、ワクチン接種のお知らせや、誕生日の患畜に健診のハガキを作成したりと、細々とした雑用が。

 しばらくして、雑用が終わったから入院室に行ってみた。
 いたいた、見つけた、やっぱり海知先生ここにいた。

 あれ? なんか声をかけづらい雰囲気。

 幾すじも通る逞しい両腕は、胸の前で組まれて考えごとをしているようで、あるケージの前から動かない。