「犬たちのいろいろな姿、形が目に浮かびます。最近は、猫も改良されてきましたよね」

「見た目の可愛さや珍しさのために、猫の体に負担がかかる体型に改良されて、めちゃくちゃだよ」

「長い年月をかけて少しずつじゃなくて、下手したら、まだ品種改良されて半世紀くらいの子たちもいるかもしれませんよね」

「短期間で品種改良するから、その分、今までなかったような病気が出てくる。これだから、俺たち獣医は日々勉強」

 ふだんから海知先生は、わずかでも空き時間ができれば、無駄にしないで勉強している。

「俺は一生、一人前になれないよ」
 そう言って海知先生は笑っている。
 院長からも、絶大の信頼を寄せられているのに、謙遜しちゃって。

「なんで、犬は人間に指示されても喜んで、健気に命令に従うんだろうな」
「人間と友だちだから」
「星川は友だちに命令するのか?」
「まさか、しませんよ、犬は友だち」
 宙を仰ぎ、しばらく考え込んだ。

「違うか」
 友だちに命令、んんん、犬は友だち、しっくりこない。

「結論は出たのか?」
「いいえ、私の永遠のテーマです」
「俺も」
 もう私が溶けちゃうんじゃないかってくらいの、優しい笑顔を浮かべてくれた。

「そうだ、犬は本能も躾でなんとか抑制できますよね?」
「そうだな、対照的に猫はそうはいかないよな」

「猫って、トイレの躾は、ほぼ一発で覚えますよね」
「躾というより、猫はきれい好きだから、一ヵ所に決めて排泄したいんだろうな」

「ほとんどの犬は、室内で排泄するとき、飼い主が決めた場所でしますよね」

「猫は飼い主が決めたトイレの場所が、気に入らなきゃ粗相をする。自分が落ち着く場所にトイレを置けとばかりに」

「あああ、言われてみれば、そんな感じです。猫が気分よく、ご機嫌さんで居心地よく暮らしてほしいと考えます」

 人間が思うように支配して、がちがちに躾をされて、窮屈な暮らしを強いられている猫は、見聞きしたことがない。

「お互いに居心地よく暮らしたいから、ここだけは人間に合わせてねって、猫には必要最低限の言うことを、聞いてもらってたなあって想い出しました」

「星川はMか。ご主人さまの猫に支配されてる言い方だよ」

 私がM!? だからかな。
 口は悪いけれど、ぐいぐい引っ張っていってくれる海知先生のことが好きなのは。

 だって、仕事をしているときの真剣な顔や、てきぱき処置している姿は、本当にかっこいいんだもん。

 ううん、ふだんリラックスしているときでさえかっこいい。もう好きがいっぱい。

「なに、にやにやしてんだよ、気持ち悪いな」
 本当に口が悪い。

 ふだんもよく会話をするけれど、特に動物の話になると、海知先生は夢中になるから話が弾む。

 気持ちよさそうに寄りかかっていた海知先生が、少し上体を起こした。
 私も改めて座り直した。なんだろ、次はどんな話をするのかな。