ドアを開ければ、外は春の風が髪の毛をそっと吹きそよぐ。くすぐったいけれど、気持ちいい!

 暑くもない寒くもない、こんないい天気に外で食べないなんてもったいない。
 ということで、お弁当を持って近くの公園にきた。

 ベンチに腰掛け、海知先生からの励ましを想い出しながら食べるたべる。
 なんてご飯がおいしいんでしょう。
 
 食後には軽くストレッチをするようになったのも、海知先生のアドバイス。

 生まれてから一度だって、運動に縁がない私に、はりきって急に運動をしちゃいけないって。
 だから、軽くストレッチ。

「さて、行くかって、もうこんな時間、急がなきゃ」

 人に慣れた鳩が、つかず離れずの距離を保っていたけれど、駆け出す私に羽をバタつかせて慌てて飛び立った。

「あの、すみません。今、お時間大丈夫ですか?」

 急いでいるのに、これがナンパなの?
 振り向いた私の顔は、きっと、きょとんとしているでしょ。

「ベンチに忘れ物してませんか?」
 ナンパじゃなくて、私の向かい側のずっと遠くのベンチに座っていた男の人だった。

「慌てて席を立ったから、追いかけてきました」
「すみません、親切にありがとうございます」

 差し出されたメモ帳を受け取り、スーツ姿の男性にお礼を言った。

「このメモ帳、これがないと、私生きていけないんです。助かりました」

「歯科衛生士さんですか?」
「いいえ、違います。ごめんなさい、もう行かなくちゃ、ありがとうございます」

 ストレッチって、やり始めると時間が経つのが、思ったよりも早いんだ。

 緩やかな日射しを浴びながら、慌てて帰ってきた。

 海知先生はケアステにいるかな。

 初日に美丘さんが、海知先生を見つけるのは簡単なんだって教えてくれた。
 入院室で患畜を診ているか、ケアステで文献を読んでいるかだって。

「ただいまです、帰りました」
「おかえり、お疲れさん」
 美丘さん、正解。ケアステに行けば、勉強中の海知先生の姿。

「どうした、慌てて」
 手を止めた海知先生が、私を仰ぎ見る。
「ぜんぜん。お疲れ様です、勉強中ですよね」
「かまわない、ちょうど休憩しようと思ってた」
 私を上目遣いで見てから、座れって視線を椅子に移すから、向かいに座った。

「このメモは?」
 四つ折りくらいの小さなメモが、デスクの上に無造作に置かれている。

「ああ、これか、オーナーの連絡先」
「渡されたんですか?」
「そ」
 もらい慣れているみたいで、あっさり淡々としている。

「あのお、個人的に患畜の病状について聞きたいとか?」