いつもと違って、真顔でまっすぐに見つめてくるから、調子が外れちゃう。

「星川だよ」
 吸い込まれそうな強い眼差しに、瞳がじっと一点を見つめたまま動けない。

 大きな瞳の中に私が映っているのが、しっかりと見える。

 眩しいほどの美形が一瞬で崩れて、頬も口もとも緩んだのを見て、私のすぼめた唇からゆっくりと息が漏れた。

「冗談かと思って安心したのか? それとも夢の実現が嬉しいのか? どっちでもいい、とにかく覚えておけよ、本気だってことを」

 かける言葉が見つからなくて、喉が詰まったみたいに息を飲み込むのが精一杯。

 ──海知先生──

 心で名前をつぶやいたときには、もう私の前から消えていた。

 人からは、他人の気持ちを察するのが上手で気が回るくせに、恋愛に関しては鈍感だって言われる。

 海知先生の言葉の意味は?

 単純に真実を見せるために、獣医と動物看護師として連れて行きたいだけ。

 深い意味はない、そうでしょう? 

 颯爽と歩いて行く、遠くに見える海知先生のうしろ姿に心の中で問いかける。

 その後は何事もなかったように、海知先生はいつも通りに接してくる。
 あの言葉はなんだったの? 深い意味はなかったの?