「おはようございます!」
 ケアステのドアを開ければ、美丘さんが、私の顔を見て、安心したって安堵の表情を浮かべる。

「おはよう、元気そうでよかった。昨日のランスのことで心配だったのよ」

「ランスの壮絶な現場の直後に、平気で飯食ってましたよ。ぜんぜん、問題なしです」

 デスクに寄りかかり、検査結果を見ながら海知先生が左手をひらひらさせた。

「おはようございます、昨日はごちそうさまでした」
「おはよう」
 海知先生と挨拶を済ませると、泉田先生とも挨拶を交わす。

「海知くん、あのあと星川さんとご飯食べて帰ったのか、風上にも置けないな」

「泉田先生、清々しいほどに、堂々と僕のことディスってますね。隅に置けないと言いたいのでは?」

「そっちでもいいよ。っていうかさ、星川さんにとっては、血生臭い凄絶な現場だっただろうに、よく食べようと思ったね」

 凄いね、信じられないとでも言いたげな好奇の目で、泉田先生が、まじまじと私を見ている。

「よく言いますね、驚いた。泉田先生の言動の方が信じられないですよ? 星川どころのレベルじゃないですよ?」

 泉田先生には驚いたって顔の海知先生が、(せき)を切ったように話し出した。

「泉田先生なんか、体の損傷が著しく激しい子の、悲惨な緊急オペ現場の直後に、なにしましたっけ?」

「二人で、いっしょに焼き肉屋に行ったじゃん」

「それでですよ、肉の部位を切り刻みながら、事細かにオペの解説をしたじゃないですか」

「それ、海知くんも平気な顔して見てたじゃん。それに、切り刻んだのを食べなから討論もしたし。海知くんも私と同類だよ」

「海知先生、星川さんを庇うつもりが、返り討ちにあいましたね」
 美丘さんが小鼻を楽しそうに動かして、くすくす笑った。

「海知くん、うまい、うまいって、嬉しそうに頬張ってたよ」
「泉田先生だって、おいしいって、がっつんがっつん召し上がってたじゃないですか」

「私は海知くんから見れば、そういう奴だからいいでしょ」
 また、二人のかけ合いが始まった。

「海知くんなんか、星川さんの前でかっこつけたいんだか、ドン引きされたくないんだか、私だけ売っちゃってさ」

「売ったわけではないですよ」

「今まで散々、ぐっちゃぐっちゃに損傷した子のオペ直後に、意気揚々といっしょに焼き肉屋に行ったじゃん」

「意気揚々ではないですよ、損傷は星川には刺激が強すぎますから、言葉に気をつけてください」

 わかってくれた。聞いていると、ちょっとまだ慣れない話で、表にこそ出さないけれど、顔が歪みそう。

「そんなフォロー、今までしたことないじゃん」

「僕は星川の教育係だから、星川が悲惨な現場に拒否反応を起こしたらと、危惧してるんです」

「それに信じられないなんて、よく言うよ。星川さんに嫌われたくないんだ、いい人ぶっちゃって」