正直言って、私は平気だと自分の気持ちに(たか)(くく)っていた。

 だから、イメージトレーニングでは、海知先生の至極真っ当な答えのあとは、俯いたまま返事のしるしに頷いていた。

 それなのに実際は、相づちも打てないほどのショックを受けた。

 なるべくショックを和らげようと、心の準備をしていたのに、心はそんなに強くはなかった。

 ひとりぼっちで世界の端っこに取り残された気分。寂しくて、心が押し潰されちゃうよ。

「自分の気持ちに、けじめをつける日がくる。そのとき、自分の気持ちは整理されて、あいつは俺の心の中から消える」

 消えるって? 絶望から少しだけ希望が見えてきた。

「そんなに海知先生の心の整理って、簡単なことなんですか」

「確認作業。どちらにしろ結果が出るし、結論はわかってる。現実を見たら納得して、瞬間に気持ちがなくなる自信がある」

 海知先生、このまま好きでいていいですか?

 こんな質問は馬鹿げてる。私は、ずっと海知先生のことが大好き。この想いは変わらない。

 私の海知先生への想いは、海知先生を含め、だれも決められることはできない。

 この世界中で、たったひとり。
 私だけが、海知先生をずっと好きでいていいか決められる。

 海知先生の言う確認作業って、なんだろう。

 私の心の中で消えかけた希望の光が、また息を吹き返して、眩しいくらいに輝き出した。

「気持ちをぶつけてきてくれて、ありがとう」
 こんなときまで優しいんだから、まいっちゃう。これじゃあ、モテるわけだね。

 いつかの美丘さんの言葉。

『星川さんは、いつも通りにしていればいいのよ。納得いかないなら、その都度、海知先生と向き合っていけば』

 美丘さん、ありがとうございます。今、私は海知先生と向き合っています。

『星川さんなら、きっと海知先生を見守ってあげられる』
 美丘さんが太鼓判を押してくれた。

 私が海知先生を見守っていれば、海知先生は幸せになれるって、美丘さんは励ましてくれた。

 一度は子どもじみて、挫けそうになったけれど、また復活した。

「なんだよ、人の顔じっと見て。出会ったときみたいに、目と鼻と口に穴が開くまで見る気かよ」

 もともと開いているじゃん。

「海知先生、私、今とっても気分最高です! ハートがぽかぽか温かくて、心は百点満点の快晴です!」

「ほらな、深刻なのは最初だけなんだよ。いつも、これだ」

 すらりと伸びた高い鼻筋に、これでもかっていうくらいに、シワを浮かべて笑っているから、つられて笑ってしまう。

「海知先生、ひとつ気になってることがあるんです」
「なんだよ、言ってみろよ」

「私、いつも海知先生に、お世話になってばかりで、なにもお返しできてないです」

「そんなことないよ、星川は俺をゾクゾクさせる」
「私が海知先生をゾクゾクさせてるんですか?」

「そうだよ、星川が俺をこんなにゾクゾクさせるとはな」

 どんな意味合いで言っているの?