「がんばりますので、よろしくお願いします」

 たとえ、それが教育係の獣医の立場として、動物看護師ということで、私に向けてくれた言葉だとしても、十分に嬉しい。

 海知先生だって、私を守れば動物の命も守れるってことだよね。
 それ以上の深い意味はないと思う。

 それでも、私には贅沢で嬉しい言葉。

「ようやく、タップが落ち着いた」

 海知先生の安堵の声で、われに返った。

 鎮静剤と抑制するベルトの二段構えで、X線撮影を無事に終え、海知先生が画像診断をおこなった。

「ここだよ」
 モニターで確認していた海知先生が、顔を上げ、私を手招きする。

「ここを見て」
 画像を見ながら、わかるまで説明してくれた。

「これがタップの問題行動の原因だよ」

 この細やかさと、まずは疑うことの大切さを熟知しているのが海知先生の強み。

 さっきは、タップが興奮して暴れまわろうとしたら、だれよりも危険な箇所を保定していたのに。

 今は、こんなに微細な病変を突き詰めて解明した。

 強気で向かう大胆さと、緻密な作業もこなせる細やかさを併せ持つ海知先生って凄いんだ、尊敬しかない。

「海知先生、凄い! どうして、この場所から病変を見つけられるの」

 モニターをじっと凝視しながら、感嘆のため息とともに、独り言が出た。

 タップの長年の問題行動は、気質や躾じゃなくて、隠れていた大きな慢性疾患だったんだ。

 興奮気味の私の隣では、冷静に淡々としている海知先生が、病変を見つけるのは、さも当然のような涼しい顔をして、モニターを細かくチェックしている。

「さっき、おっしゃいましたよね、慢性疾患が隠れていることもあるって」

「ここにいたな、悪さしてるやつが」
 しなやかな指先が、コツンと軽くモニターを突っついた。

「俺を前にして、隠れようなんて無駄だよ」

「まさか、こんな裏側だとは考えもつかなかったです」

「その、『まさか』を見逃さずに見つけるんだよ。かならず悪さしてるやつは、どこかに潜んでる」

 海知先生の顔は、宝物探しをしている子どもみたいにワクワクしている。

「病理診断や画像診断の向こうには、今、まさに、病と闘っている患畜がいるんだよ」

「モニターは嘘をつけない、真実が映し出されています」

「その通り。苦しんでる患畜のために、俺たちがいるんだ。悪さをするやつは、草の根分けても探し出して、少しでも患畜を楽にさせてあげたいんだよ」

 ここでも、海知先生の根気が発揮されている。
 もう探すところがないんじゃないの? そう思うほど、くまなく根気よく探している。

「これが獣医の醍醐味、ほかの獣医の見落とした疾患を、拾い上げることに魅力を感じるんだよ」