どうも、薬作りしか取り柄のない幼女です


「…………」
「あれ!?」

 などと思い出に浸っていたらみんなの顔がドン引き!?
 なんで? なんで?
 私変なこと言ってないよね!?
 なんでドン引きされてるの!?

「……なるほど、君はほとんど外の世界に触れずに育ったんだね」
「え? は、はあ、まあ、それは……そう言われればそうなんだと思いますけど……」

 頭を抱えて溜息まで吐くルシアスさん。
 私の生い立ち、そんなに非常識だったんだろうか?

「それにしても、毒を作ったつもりで若返りの薬を作ってしまった、か。確かにあの王女が知れば間違いなく狙われるね」
「うっ……」
「いや、脅してるわけではなく。君の判断は正しい。そしてその毒をたまたま被った風聖獣様が目を覚ました……ということは人間と獣人——ヒトにとって毒でも、聖獣には良薬だったということか。それが『聖獣治療薬』の正体……」
「は、はい」
「ちなみに、『聖獣治療薬』もとい、その毒を作ったのは若返った時のものが初めてなのかな?」

 え? なんでそんなことを?
 と、思うが……あの日作った毒は、最上級ポーションの失敗作をベースにしている。
 最上級ポーションを作るために[マナの花]を素材にするようになったのは、その貴重性と可能性に期待してのこと。
 まあ、全部マナの毒で失敗したんだけども。
 でも、その毒さえなんとかなれば最上級ポーションは無理でも、他の薬になるかもしれないじゃない?
 だってマナとは魔術を使う時の対価、魔力の元素。
 魔力はマナが細かくなってできた物質だと言われている。
 魔力は自然回復するものだけど、魔力回復薬とかが作れたら冒険者や魔術師には大助かり、とかにならない?
 と、話すと「は?」「妄想力たくましいね」と言われる話を、ついうっかりルシアスさんにも口を滑らせてしまったわけだが。
「確かに興味深いな」と返事をもらって「でしょー!」とテンション上がってしまった。
 いかんいかん、この辺にしないと。
 今の話で引かれなくても、これ以上話すと絶対に引かれる。
 今までがそうだったからやめとくね。

「失敗作……“薬師の聖女”を騙る王女……火聖獣様の回復……。まさかスティリアは火聖獣様に失敗作のポーションを捧げていたのか?」
「そうだろうな。だが、余の身には良薬であった」
「……恐ろしい女だな」
「え……? あ、あの、まさか最上級ポーションの失敗作、捨てられてたんじゃなくて……」
「余に献上されていたのだ。だいたい四、五年前ほどからだな」
「!? そんな、私失敗作は破棄します!? なんで!」

 間違いない、私が[マナの花]を最上級ポーションの素材にできないかと、試行錯誤し始めた頃だ。
 でも、なんでそんなことに?
 私は確かに失敗作は破棄して、捨てた……はず。
 ……捨て……捨て……?

「…………? ……捨てた、ような? ……いや、捨てた、はず? 捨てたっけ? 捨てたような?」
「ミーア? あ、アナタ……」
「……まあ、ミーアがこの様子ではミーアが失敗作だと思っていたものが崖の国の聖獣祭で火聖獣様に献上されていたと見て間違いなさそうだな」
「す、すみません……」

 破棄の棚に入れておいたところまではかろうじて記憶にあります。
 本当にそのまま破棄されたかは、定かではないですってことですね……。

「謝ることなどない。それで余は人型を保てるまでに回復したのだ。汝は誇ってよいぞ」
「え、あ、は、はい……でも……完成した薬ではないのに……」

 それがとても申し訳ない。
 火聖獣様は喜んでるみたいだけど、私は失敗作が振る舞われたのはムッとしてる。
 さっきはドラゴンの素材に目が眩み、自分の作った薬がどうなろうと興味がないと思ったけれど……薬を作るのが大好きだからこそ、失敗作が出回っていたことに腹が立って仕方ないのだ。
 まして、[マナの花]を使った最上級ポーションの失敗作は、人間には毒。
 それを、なんで守護者たる火聖獣様に献上しようと思うの?
 意味がわからない!

「さて、なぜスティリア王女が火聖獣様へ失敗作を献上したのかはわからないが、ミーアが“薬師の聖女”であるのなら、俺——いや、私はあなたに感謝をしなければならない」
「へ!?」

 再び私の前に跪き、今度は頭を下げるルシアスさん。
 その姿は、まるで聖殿にいた頃読み聞かせられたお伽話に出てくる王子様。

「去年、妹エルメスが罹った肺炎を治してくれたのはあなたの薬だ。当時、聖森国には肺炎に効く薬そのものが存在しなかった。あなたが崖の国で開発したと聞き、私はそれに縋って、そして本当に治った。妹の命を助けてくれたこと、感謝しています」
「え……え?」

 肺炎の薬?
 あれ、私が開発したんだっけ?
 ぜ、全然記憶にない……。
 なんでか「ルナの木の実美味しいな、薬に使えないかな?」って、なんか作ってた気はするけど。
 そんなぼんやりした記憶しか、私にはないのだ。それなのに感謝されても困る。
 私は——ジミーア時代は本当にあらゆるものを薬作りに使えないか、とそればかり考えていた。
 救われた人がいるのはよいことだとおもうけれど、私にとってはその延長線に過ぎないのだ。
 むしろ、ルナの木の実を食べながらそんなことを考えてる時点で、私変人すぎるのでは?
 あ! 思い出した!
 私がなんかのお礼でいただいたルナの木の実をひとつ半食べてすぐに薬の材料にしてしまってから、城の人たちが「お前はもう食堂の飯以外食うな」って言われたんだ!
 なんかよくわからないけど「そうなのか」って納得して食堂の安い飯しか食べなくなったのよ!
 ……あれ、なんのお礼だったんだろう?
 まったく思い出せない。
 あらゆることに興味がなさすぎる、あの頃の私——!