保健の先生は会議中で不在のようだった。

とりあえず中に入り、東郷さんに渡された氷嚢で右手を冷やす。


「ごめんね、ほんとどんくさくて…」

「ほんとに。」

「アハハ…」

「…嘘だよ。私のことかばってくれたんでしょ?」

「いや、私そんな器用じゃないよ。
ボール来たから怖くてなんか手が出たみたいな。
東郷さん避けてたし、無駄に怪我しただけ…アハハ」

「そんなことないよ。ありがとう。」


東郷さんから素直にお礼を言われると、
なんか不思議…だけど嬉しいな。


「エヘヘ…どういたしまして。」

「とりあえず湿布しよ。それと固定。
後で病院行った方がいいよ。」

「うん、ありがとう。」


東郷さんは手際よく応急手当を施してくれる。


「香月くん、悪いなって言ってたね。
香月くんが蹴ったボールじゃないのに。」

「え?そうなの?」

「そうだよ。
悪いなって…なんか…麻ちゃんが香月くんのものみたいな言い方だよね。」

「へっ、そ、そんなこと…!」

私が…香月くんのもの…

香月くんに言われたら怒るところだけど…
なんか今は嫌な気持ちしない。


手当てが終わり、東郷さんは道具を片付けながら言った。


「麻ちゃん。香月くんと付き合ってないんだよね?」

「え!?つ、付き合ってないよ!」

「じゃあ約束…守ってね。」

『協力はできなくなっちゃったけど、
邪魔はしないよ!』

「あ…うん…。」


私は自分でもわかるくらい下手な笑顔を作って見せた。


その時、保健室の扉が開いた。


「香月くん…」