「くくっ、あははっ……!」
(へ? えっ……なん、)


 幼い子供のように屈託なく、表情を(ほころ)ばせたまま声を出してからからと笑う裕一郎。
 初めて目にしたその様子に、消え去っていたはずの理性が恋幸の脳内へ帰還する。

 つい先ほどまでは彼女を形成する細胞の全てが『倉本裕一郎』を求め続け、彼に触れられたいという欲望以外には何も彼女の心の中に存在していなかった。
 しかし、今はどうだろうか?


(笑う裕一郎様……か、か、可愛い〜っ!! まさに、守りたいこの笑顔ってやつ!!)


 ときめきで胸が締めつけられ、彼を抱きしめたまま頭を撫で回して頬擦りしたい……などと、まるで赤ん坊を前にした時のような衝動に駆られるが、今しがた(よみがえ)った“理性”でなんとか思いとどまり裕一郎の顔を凝視(ぎょうし)する。