「あの、裕一郎様」
「うん? なんですか?」
「こんなこと聞いちゃいけないかもしれないんですけど、」


 彼女の前置きを聞いた時、真っ先に裕一郎の頭をよぎったのは「とても手慣れていますけど、女性経験は何人ですか?」と聞かれる可能性を危惧した憂鬱感にも似た不安である。

 しかし、


「……小日向さん、」
「なんの香水を使っているんでしょうか……?」


 少しでも彼女が抱いたかもしれない嫌悪感を(ぬぐ)おうとした裕一郎の声に被せて落とされたのは、今しがた考慮した『可能性』とはかけ離れた問いだった。