「本題についてお話したかった事は以上です」
「……あっ、は、はい。わかりました……えへへ、すみません」
「……」


 独りよがりな(いや)しい願望を押し付けようとしていた自分に気づいた途端、恋幸は『彼』の顔を見ることができなくなった。

 両手の拳を自身の太ももにのせ俯いたまま唇を引き結ぶ彼女の頭を、彼は静かに伸ばした片手で優しく撫でる。
 瞬間――恋幸は弾かれたように顔を上げて彼を見るが、その表情は一切変化しておらず、ただ空のように美しい瞳が眼鏡越しに彼女を映していた。


「……っ、あ……」