半年間、週5ペースで通っているうちに店長をはじめとした従業員にはしっかりと顔を覚えられ、今ではオーダー時に「いつもの!」と言うだけでメロンソーダが出てくるようになった。
 ベタな状況・設定に謎の憧れを持つ恋幸は、たったそれだけで「ふふん、偉い人になった気分!」と心の中で得意気になる。


「今日もお仕事?」
「はい!」
「新刊、楽しみにしてるわ。頑張ってね」
「ありがとうございます、頑張ります!」
「ふふ、ごゆっくり」
「ゆっくりしまくります!」


 恋幸はカウンター席に着き店員と手を振って別れたあと、トートバッグからノートパソコンを取り出しテーブルに置いて電源を入れた。
 おしぼりで手を拭いてから執筆ツールを開き画面を眺めるものの、行き詰まった今の場面を打開できそうな名案が彼女の頭にふわりと降ってくるわけではない。