遡ること約100年前――……時は大正時代のことである。
 恋幸の前世にあたる娘・幸音(ゆきね)は、とある伯爵家に生を受けた一人娘であった。

 家族仲は良好で友人関係にも恵まれ、一見なに不自由ない生活を送っているように思えたが、


「ごほっ! げほっ、げほっ……!」
「幸音様! 大丈夫ですか!?」


 幸音は生まれつき病弱で心臓が弱く、医者には「20まで生きられたら幸運だろう」と告げられていた。
 自分の足で外を歩いた経験は片手で数えられる程度。発熱していない日の方が珍しく、一年のほとんどをベッドの上で過ごしているような娘だった。