彼女は求婚したい気持ちを固く目を閉じたままぐっと(こら)え、深呼吸を何度か繰り返すことでようやくいつも通りの判断力と思考力を取り戻すことができた。


「ふーっ……あ、あの、倉本様の顔がかっこよすぎて取り乱しました……! すみません!!」
「……いえ、それは構いませんが……急に目を瞑ってしまったので、こんな所で“待っている”のかと勘違いするところでした。こちらこそすみません」
「……? 待つ? 何をですか……?」
「さあ? 何でしょう?」


 きょとんとした顔で首を傾げる恋幸を見て、裕一郎はどこか意地悪そうな色を瞳に(にじ)ませただけでそれ以上は何も言わず、姿勢を正して「どこでも好きな場所を選んでください」と付近にあった案内看板を指さす。