吾郎兄さんにも美輪の実家にも電話したけど、連絡がつかなかった。
 なんだ。何が起こってる? まさか、また日本で何か大きな地震とかでも起きてるのか? と思って調べたけれど、いつも通りの、のどかな芸能ニュースばかりが目についている。

 こういう時に、日本から離れてるのを実感する。
 あとは、寺沢さんにでも聞いてみるしかないか。

『……なんだ』

 寝ぼけた声でも、電話に出てくれた寺沢さんの声に、安心した。

「あ、寺沢さん?」
『こっちは寝てるんだよ、なんだよ、こんな時間に』

 でも、すぐに不機嫌な声に変わるのは、まぁ、向こうはもう深夜もいい時間だろうからな。

「ねぇ、美輪のこと、何か聞いてる?」
『あ、美輪さん?』
「そう。全然連絡つかないんだよ。」
『……え?』

 ん? 少し戸惑ったような声。

「美輪の家族とかにも電話したけど、誰もでねぇし」
『……あー』
「何。なんか知ってるの?」
『美輪さん・・・俺の言ったこと、守ってるのか・・・』
「な、何言ったんだよっ!」

 寺沢さん、美輪になんかあったら、マジ殺す。

『と、とりあえず、メールでもしとけ。まぁ、なんだ、っそ、そんなたいしたことは起きてない、はずだから』
「何、その意味深なの」

 電話越しでも、殺せそうな眼差しで廊下を睨みつける。日本に届け、俺の視線。

『とにかく、俺は今日も早いんだよ。お前がいなくったって、他にも仕事があるんだっつーの』

 言いたいことだけ言って、すぐに切りやがった。無責任親父めっ!
 なんだよ、この消化不良。
 とにかく、もうこの時間じゃなぁ、と思い、メールだけ送った。

『何度か電話したんだけど。連絡くれ』

 心配しすぎて、ハゲそうだよ。美輪。




 次の日の朝。スマホを確認したけれど、メールの返信はない。
 大きなため息とともに、家を出た。
 悪いことばかり考えて、睡眠不足。目の下のクマが大暴れしてるに違いない。

『Hi、リョウ、元気ないわね』

 いつもギリギリに来るアリシアが、珍しく、時間より早めに出ている俺の隣を歩く。
 この年になっても、少しずつ背が伸びていて、もうちょっとで180くらいになりそうな俺と、並んでもたいして差を感じないアリシア。
 やっぱ、こいつ、でけぇよなぁ、と、くだらないことを考えながら、アリシアと朝の挨拶をかわした。

『何? かわいこちゃんと喧嘩でもした?』

 ニヤニヤ笑いながら、サングラス越しに見つめるアリシア。そういや、こいつの目の色って何色だ?

『いや。そういえば、お前、目の色って何色?』
『ぁあ!?』
『いや、ふと気になって』

 なんて言ってる時に、スマホが鳴った。