撮影は予定時間よりも少し早目に終わった。出演者たちは、スタッフや私たちエキストラに軽く挨拶をして、帰っていった。

「面白かった~! 一馬、ありがとうね」

 社会人になる前に貴重な経験をした、と、ほくほく。
 それに遼ちゃんにも会えたし。

「じゃあ、ケーキ食べ放題なし?」
「それは別~! 行くわよ!」
「ほどほどにしとけよ~。ただでさえ丸いのが、余計、丸くなる」

 ニヤニヤしながら言ってる一馬に、蹴りをいれ、学校を後にした。



 撮影して一か月後。
 再び、エキストラの話が来た。同じドラマの教室でのシーン。
 また女優さんが見られる! (ついでに遼ちゃんも)と思ったら、即参加の連絡をした。今回は一馬は都合がつかず、私だけ。
 一馬みたいに知り合いはいないので、待ち時間には自分の席で本を読んでいた。

「美輪さん、面白い?」

 本に集中してたせいで、周りの状況に気が付いてなかった。

「へ?」

 気の抜けた返事をしながら見上げると、遼ちゃん。

 ……へ?

 まわりの他のエキストラも、びっくり。

「あ、は、はい。面白いです。」

 ふふふ、と大人っぽく笑う遼ちゃんは、一馬がいたときのようなオカマではなく、ずっと王子様オーラをかもしだしていた。

「今日は一馬くんいないから、寂しいんじゃない?」
「え。えと、本があるから。」

 王子様オーラに押され気味の私は、顔をひきつらせながら笑顔。

「ふーん。僕のお芝居も、ちゃんと見ててね?」

 ……そっか、彼はあんなんでも俳優さん。きっと、今のこれも演技なんだ。

「は、はい。がんばってください」

 手をひらひらさせながら戻っていった。
 思わず、ふーーーーっと、息を吐き出すと同時に、周りにいた女子校生(風)たちにいっきに囲まれた。

『なんで、知り合い?』
『どういう関係?』
『紹介して!』

 だいたい、こんな風なことを言われたが、親しくもない相手に応えるわけもなく。ああ、こんな時に一馬がいてくれたら、と、無理な願いを考えてしまった。