遼ちゃんを追い出すのと、あまりにも興奮しすぎてたせいで、結局、眠れたのは二時過ぎ。それでも会社は休みではないので、時間通りに起床。
 鏡に見える私の顔は、最悪。

「これじゃ、子豚どころじゃない」

 はぁ……と、ため息をつきつつ、スマホをチェック。
 まさかの遼ちゃんからのメッセージ。

「バージンは僕がもらうから、大事にしててね?(キスマーク)」

 あ、あのやろぉぉぉぉっ!
 ふつふつとこみあげてきたのは、怒りでしょうか。羞恥心でしょうか。
 朝からパワー使いまくりで、疲れました。

 この年にもなって、と思うかもしれないけど、地味に特に目立たず生活していれば、そんな出会いはあまりない。特に、中学校からずっと女子高で育った私は、男性といえば、一馬だったり、兄だったり、身内としかほぼ接触はない。

 学生時代のバイト経験もほとんどなく、どうやったら男性と接点が持てるんだろう? と、いつも不思議に思っていた。
 過去に一度だけ、高校の登校の途中に待ち伏せされて、告白されたことはあったが、丁重にお断りした(好みじゃなかったから)。
 高校時代の友達に言わせれば、私は理想が高すぎるらしい。身近にいる男性がレベルが高いから。

 正直、そういわれてもピンとこない。
 確かに、一馬は小さい頃から人気者だったし、兄もバレンタインデーにはたくさんのチョコレートをもらって帰ってきてた。兄に言わせれば、全部、義理チョコだったらしいけど。

 大学も女子大で、サークルも大学内の女子だけのサークル(図書館サークル)で、見事に接点なし。あっても、私よりもかわいい女子はたくさんいるので、なかなか私のところまでいらっしゃる殿方はいなかったなぁ……。

 私と遼ちゃんは小学生の頃、よく遊んでいた幼馴染。といっても、二つ年下だから、そんなにしょっちゅうでもないか。特に、中学校にあがってしまってからは、ほとんど接点はなかった。

 むしろ、一馬と遼ちゃんは中学、高校と一緒だったはず。まぁ、彼らも二つ離れているから、一緒にいた時期は短いだろうけど。

 一馬からは詳しい話は聞いていないし、どうやったらあんなに変われるのか、不思議でしかない。でも、いわゆる成長期ってやつで、男の子は一気に変わるんだろうなぁ、とぼんやり思う。
 そもそもが、あんなに美しい人たちのいる世界にいる遼ちゃんが、私に固執するのがわからない。




 遼ちゃんが言ってた通り、撮影が始まったようで、まったく連絡がこなくなった。同じマンションの中で、台本とにらめっこしてるのか、まったく違うところでやってるのか、わからないけど。
 とりあえず、私がドキドキする環境ではなくなったことだけは確かだ。
 ちょっと寂しい気がしないでもないけど。

 むしろ、私は私で、新創刊に向けてのキックオフイベントの準備に忙しくて、おかげで遼ちゃんのことを考える余裕がなかった。メインで動いてたのは、先輩二人なので、私はそのお手伝いをしてただけだけど。

 実際、キックオフはうまくいっていた。
 私も、次の機会があったら、うまくやってみせる! と心に誓った。
 そして、キックオフの最後に、今回の雑誌のCMが流れ出した。

 あっ。
 兵頭 乃蒼(ひょうどうのあ)だ。彼女の綺麗な横顔に釘付けになる。
 彼女のウェディングドレス姿が大きく映った。
 大きく背中のあいたドレスに、彼女を支えるように男性の大きな手が映る。 
 そして、そのそばに立つ男性は……相模遼。
 二人の誓いのキスシーンを見て……ちょっと、胸が痛くなった。