流石に苦しくなって足が止まる。
ぜーはーと息を整えれば、酸欠気味でぼやけた頭が段々クリアになっていく。
……藤のあんな声、聞いたことなかった。
"俺の片想い"
そう言った時の藤の声は、まるで壊れ物を扱うかの様に優しくて。
そしてどこか心臓がぎゅっとなるような、そんな声だった。
私、藤のこと何も知らないんだ。
流石になんでも知ってるとまでは思ったことないけど、高校に合格した時のお互いに目を合わせて笑った瞬間とか、机を突き合わせて必死に勉強してたあの時とか。
色んな藤を見てきたつもりだった。
でも──
"俺、好きな人いんだよね"
私の知らない藤の一面を知った今。
──なんか、ちょっと、嫌、かも。
もやもやぐるぐるとした得体の知れないものが、腹の中ですとんと形作った様な、そんな感じがした。



