俺が最低なクズになり果てて、紗和と別れてから…
地獄の様な日々だった。
後悔の毎日…自分が許せなかった。
彼女という支えを失って、俺にはもう何もなくなった。あるのは仕事だけだった。それからは、今まで以上に仕事に打ち込んだ。
そして、同期で一番に出世した。頭取の娘との見合い話さえも出る程に出世コースにのった。
それもこれも…いつか、紗和に会ったら頑張ってると…認めてほしかったから。
俺は…今日までずっと…彼女を忘れられなかった。


今日…仕事先に向かう途中、偶然にも彼女を見つけた…。
8年ぶりに見た彼女は、相変わらず…清楚で、白いワンピースがよく似合っていた。思わず声をかけたくなった…。だが彼女の隣は、もう俺の場所はない。
そして、彼女は妊娠していた。少し驚いたが不思議に辛くはなかった。むしろ…嬉しかった…。
それは彼女が…本当に笑顔だったから…。
紗和の幸せそうな笑顔…。
俺には、できなかった事だった…。
これでよかった…よかったんだ…そう思った。
少しだけ、気持ちが軽くなったんだ。

その日…檜山に、紗和との話しをした。大学の同級の檜山は同期で今度、次長に昇格する。同期が沢山辞める中で、檜山は数少ない仲間だった。そんな檜山の前祝いで久しぶりに二人で飲んだ。
なぜか今日は、今までの話しをしたくなった。
別れてから誰かにこんな話をするのは初めてだった。
俺がどれだけ駄目だったか…クズだったか…
そして、彼女がどれだけ大切だったのか…
檜山は…ずっと頷いて聞いてくれていた。

話が終わると檜山は…俺を見て、笑った。
「澤山…お前…それが恋だったんじゃん?」
「え?」
「誰かに本気になるって…そういう事なんじゃん?
かっこ悪くて、嫌な部分がでるなんてふつーじゃん。」
「だけど…俺…本当に最低だったからさ…」
「けど、俺は澤山が悪いなんて思わんよ…むしろ、傷ついたのはお前だろ?暴力は駄目だけど、でも…お前は、そんだけ傷ついたんだ…」
そう言ってもう一度、満面の笑みを俺に向ける檜山がいた。
「…バカ…」
俺はいつものようにそう言ったが…。
けど…今日の俺は…檜山の言葉に救われた。

あの日…君に初めて会ってから…
ずっとずっと俺は恋をしていた…そして傷ついた…
本気で傷ついた…でも本当に大好きで大切だった。
それだけは、紛れもない真実だった。

「それよりさぁ、澤山…相変わらず超絶イケメンだな。」

「は?それより?」

「あのさ、紗和ちゃんの旦那はカッコイイの?」

「しらねーよ」

「写メとかないの?」

「あるわけねーだろ」

「お前、バカか?」

「はい、バカ頂きました〜」

そう言って檜山は俺にまた笑っていた。
それを見てつられて俺まで笑ってしまう。
檜山のバカな話に力が抜けていく。

あぁ…そうか…俺、いつの間にか笑えるようになったんだな。時間は俺に、君との事を思い出にかえる力をくれた。もう、昔話なんだ。

「ありがとうな、檜山…」

紗和が幸せになるように、いつか俺も、幸せを見つけようかと少しだけ思えた。

「じゃあ檜山…今日はお前の奢りな」

「え?じゃあ?俺の前祝いじゃないの?」

「いや、俺の、新しい門出を祝え。」

「は?誰の?」

「俺の!」

「…は?誰のだよっ!」

「…アハハ」

「バカか?」

二人で声を合わせて笑い出す。

さようなら…紗和。