今日からはじまる恋の話



いつも深酒なんてしないのに、俺は珍しくカウンターで酔い潰れてしまった。

誰かに名前を呼ばれながら、肩を揺すられていた。きっとマスターだ。

起きる気配のない俺を見てマスターがどこかに電話をかけていた。おそらく和久井さんだろう。

しばらくしてBARのドアにかけられている鈴が鳴った。入ってきた足音は一直線に俺の傍で止まった。

なにやらマスターと喋っている。タクシーを呼ぶかどうかを確認してるのかもしれない。

人前で酔い潰れることなんて滅多にないのに今日はダメだった。強いアルコールを体に入れなきゃ鈴村の顔ばかりを思い浮かべてしまう。

「帰るぞ」

その声と同時に椅子から立たされた。そのまま背負われて、俺は力なく体を預ける。

おんぶをされたままシェアハウスへと続く道を進んでいた。

自分で歩かなきゃいけないのに、まだ頭がぐるぐるしていて、まぶたすら開けられなかった。

「なんでこんなに飲んだんだよ?」

和久井さんがなにを言ってる。でもそれすらあまり耳に入ってこなかった。


「……鈴村は、鈴村はダメなんです。ダメなんですよ……」

俺はうわ言のように繰り返してるだけ。それから「なんで?」という言葉だけが聞こえた。

なんで、なんて、そんなの分かり切っている。


「……俺に鈴村はもったいない、から……」

それだけを言って、意識が飛んだ。