あなたは運命の人

「桐人、行かないと」

近くから聞こえた女性の声に心臓がヒヤリと冷たくなる。

桐人君を名前で呼んだ。

それを聞いたら、今すぐこの場から消え去りたくなった。


「青柳」

桐人君は彼女を呼んだが彼女と違い、苗字だった。


「俺は彼女に付き添うから会社に戻ってくれ。この書類だけ頼む」

桐人君は鞄を漁るとファイルを彼女に差し向ける。

「この後の仕事はどうするの!?」

「この状況で彼女を放置出来ない」


会話から分かった。
彼女は桐人君と一緒に働いていると。

それに安堵したが、気になったことがあった。

彼女の前だと『俺』だったこと。


「救助者はどちらですか!?」

そこに救急隊員が駆け付けた。

「私は大丈夫です……桐人君、仕事に行って下さい」

桐人君は私に見開いた目を向けた。

「大丈夫です、救急車も来ましたし」

「ごめん。夕飯は買っていくから安静にしていて。何かあったら絶対電話して」

「分かりました。ありがとうございます」