あなたは運命の人

「桐人！？」

呼び止める声を無視して丁度青になった信号を走り抜け、蹲っている彼女に声を投げた。

「美優！？」

駆け寄ると膝を曲げて美優の両肩を掴む。
苦しそうに浅く速い呼吸をしている。

この症状見覚えがあった。

「過呼吸か！？」

問い掛けると美優は力なく首を縦に振った。

俺が焦ってはいけない。

「落ち着いて息を吐いて」

落ち着いた声色で手を伸ばして美優の背中を優しく撫でるが状況は変わらない。
それどころか、悪化している。
脳に酸素が行き届いていないせいか、目が虚ろになっている。

俺は初めて目の前で苦しむ美優を見た時、苦しむ美優を励ますことしか出来ずに歯痒かった。
今度は助けてあげたいと過呼吸について調べた。
過呼吸は空気を吸いすぎるのが原因だ。
落ち着いて息をゆっくり吐けば改善するらしいが、今の美優は錯乱していて無理そうだ。
どうするべきかと考えて、一つの方法を思い付く。

「ちょっと我慢して」

俺は美優の後頭部を押さえると美優の口を塞いだ。
口を塞いで空気を吸えないようにしようと考えた。
他にも違う方法はあるだろうが、苦しむ美優を前に俺も混乱しかけていたせいだ。
下心は一切無い。
人工呼吸と同じ理屈だ。

目を開けて美優の様子を見ながら十秒後、唇を離した。