あなたは運命の人

「きっと君の事が気がかりで、最期に安心したいのだろう」

俺は美優を落ち着かせようと背中を優しく摩った。

「もし各務が君と結婚する意思があるなら彼に任せようと思ったが、あの様子だと無理だろう」

美優は俺へと顔を上げる。

「無理って、どういうことですか?」

その問いに昨日の夜に考えておいた言葉を並べる。

「君の想いは尊重したいが、各務はお勧め出来ない。僕なら演じられる」

「演じられるって……?」

「君のお母様が安心して天国にいく日まで、君の婚約者を」

天国の単語に現実味を増したのか、美優の瞳に涙の膜が貼る。
涙が出ないようにと背中を摩るが、大きな瞳からは涙が溢れ出てしまった。

「どうして、お母さんは、私に、言ってくれなかったの……?」

「君だから言えなかったんだよ。娘には秘密にしてくれって。どうか君をお願いしますって僕に頭を下げに来た」