「あら、いらっしゃい。真宙くん」
レジ前に立っていた、このケーキ屋のオーナーの奥さんである 笹木さんが、俺に優しく声をかけてくれた。
何年ぶりかに会った、笹木さんの後ろで1つに束ねている黒髪には、少し白髪が混じっていて。
時の流れを感じた。
笑うとクシャッとなる優しい顔は、昔から変わらない。
俺が小さな頃から何度も親と来ていたから、昔からのスタッフとはもうすっかり顔なじみだ。
「真宙くんが来てくれるなんて、久しぶりじゃない? 最近は、真宙くんのお母さんが来てくれることが多かったから」
「ご無沙汰しています。そうっすね」
「しばらく見ない間に大きくなったわね〜! しかも、イケメンになって!
真宙くんモテるでしょう?」
「いやいや、全然モテないですよ」
「あら、そうなの〜? それで? 真宙くん、今日はどうしたの?」
「えっと。今日は、妹の誕生日で……っ!?」
俺が笹木さんに返事をしながら、隣に立つもう1人の店員を目にした瞬間。
俺は、持っていたカバンを床に落としてしまった。



