「…あなたは、マダムが好きなの?」
「ここで働いていて、マダムが嫌いなコなんていませんよ。」
バーテンダーは
グラスをひとつひとつ丁寧に
シルクのような目の細かい布で
磨きながら、答えた。
(その好きは、どういう意味の「好き」なんだろう…)
僕は、見てしまったから。
マダムが彼に絡みつく姿を…。
思い出すと僕の鼓動が止まらない。
見てはいけないスリルと
妖艶な雰囲気に踊らされたのか。
バーテンダーは普通の顔で
グラスを磨いている。
僕は運んできた荷物を、
言われた通りに片付けて、
一息ついてカウンターで
ホットミルクを飲んでいる。
彼はいつも、僕にそれをくれる。
はじめて、あった時から。
すごく、安心する味。
グラスに映る自分。
なんて冴えないんだろう。
僕はまだこども、だし。
早く大人になりたい。
大人になって、あなたと…。



