でもやっぱり僕は田舎猫だから。
不安を常に抱えていた。
ときどき都会猫は
そっけない素振りをする。
「小猫ちゃん」
彼はイジワルだ。
近づくと逃げる、
逃げると近づく。
甘えると離す、
離れると甘える。
僕を弄ぶように試すように
気持ちを知っていて
突き放すように
子ども扱いをする。
離れることができないから
気持ちが乱れる。
きっと離れたら生きても
いけないのかもしれない。
きっと僕たちは
それぞれの
望まれた役割を演じている。
彼も、律儀な大人でいる事を
周りから強いられているに
過ぎないんだ。
僕が、素直な純真無垢な
こどもでいなければ、
ならないように。
僕は純真無垢でも
なんでもない
汚れた猫なのに。
彼に本気で抱かれたいと思うのは
罪なんだろうか。
きっかけは些細なことだった。
二人の均衡を壊すには
それで十分だった。
いつものローテーション。
疲れて帰ってきた二人。
風呂の後に僕は喉が乾きすぎて
テーブルに置いてある
グラスの飲み物を
ふいに口にしてしまった。
彼はいつも「なにか」を飲んでいた。
飲んだのは
僕が置いたのと勘違いした
同じグラスの
彼が飲んでいたものだった。
それを飲んだからか。
なにか悪いものでも入ってたのか。
いつもなら安堵感で眠ってしまうはずの僕の心が、
彼に包まれていても
落ち着かない。
だんだん身体の奥が
熱くなっていくのがわかる。
変な気分だ。
僕は我慢できなくて、
唇を重ねた。
彼は驚いた様子だったが
次第に熱を帯び、その熱い想いに答えてきた。
「あぁ」
僕は熱い吐息を洩らした。
彼の指が身体を這う。
身体が硬くなり
なにかが溢れだしてきそう。
…と、ふと彼は僕を離す。
「ダメだ、それ以上したら
俺が止められなくなる。」
「いいよ。僕が望んでいるんだ。お願い。」
「いや、ダメだ。それはできない。絶対にダメだ。」
はっきりとした拒絶。
わかってはいたけど、
すごく傷つく…。
彼が相手として見てくれないほど、まだ僕は幼い、ということなのか。
「それをしたら俺は…。」
彼は僕を強く抱きしめた。
「痛い、痛いよ。」
「俺はきっと、君を壊す…。」
彼は僕を突き放すと
「ごめん。」
といったきり
部屋を出てしまった。



