4月1日 私の入社式の日。


新品のスーツを着て鏡の前に立つ。

緊張で顔が引きつっている。

「ねぇ、郁人。おかしくないよね? 大丈夫かな。髪型とか変じゃない? ふぅーっ、緊張するよ」

「大丈夫だよ。かわいいよ帆乃香。化粧とかしちゃって、なんか帆乃香一人だけ先に大人になっちゃった感じがして寂しいな」

「そうかな? 私は何も変わってないよ。それじゃ、行ってくるね」

「ん。気を付けて。変な男に捕まるなよ。浮気すんなよ」

「ばっ、ばか! そんなことしないって!」

「じゃ、行ってきまーす!」

郁人に出会ってからちょうど1年。

この1年の間に色々なことがあったな。

そんな事を思いながらマンションの前の公園にある桜の木を見上げた。

桜は満開で、私と郁人のこれからを応援してくれているように見える。

「帆乃香! 忘れ物! 戻ってきて」

マンションから出た私に向かって3階の部屋の窓から郁人が呼んだ。

「ん? 何を忘れたっけ?」

そう思いながら部屋に戻ってみると、

「俺の、愛だよ。忘れただろ」

郁人はそう言って玄関先で私にハグをして、唇に触れるだけのキスをしてくれた。


「郁人、ありがとう。緊張が少し解れました」


「・・・別に、いい」


そう言って、郁人の顔が少しだけ赤くなった。




===END===