私たちがホームに出ると、そこには蒼汰くんが立っていて。

私は思わず郁人の後ろに体を隠した。

郁人が蒼汰くんに気づき、私が後ろに隠れたことで何かを悟ったようで、蒼汰くんから目線を外さないまま、

「帆乃香、何があった?」

とても低い声でそう私に聞いてきた。

「何も・・・ないよ。あの、郁人。早く学校へ行こう」

「本当だな? アイツと何も無かったんだな?」

「うん、何もなかっ・・・」

「帆乃香ちゃん! あの。さっきのは」

私の言葉が蒼汰くんに遮られて、蒼汰くんの言葉が郁人の言葉で遮られた。

「なに帆乃香を呼んでんだよ。お前、帆乃香に何した?」

「何もしてねーよ。少し話しただけだろ」

郁人の強い口調にも負けず、蒼汰くんが一歩も引かない。

「帆乃香、行くぞ」

郁人が蒼汰くんからやっと視線を私に移し、改札口へ向かおうとした。

その時も手は繋いだままで。

「そっか。2人は付き合い始めたんだ。良かったね、帆乃香ちゃん」

私は蒼汰くんへ振り返って、

「ありがとう、蒼汰くん。私は、郁人が大好きなの。ずっとずっと郁人だけなの」

そう言って蒼汰くんに会釈をして、郁人と駅を後にした。

さっき少しだけ、ほんの少しだけ蒼汰くんに心が揺れたことは絶対に内緒。

前に「情に流されるな」って郁人に言われたことがある。

私、蒼汰くんに流されてたのかな。私の悪いところだね。

歩きながら恐る恐る郁人の顔を覗くと、郁人が目を細めて私を見つめていた。

私を睨んでいるけど、怖い顔ではない。

「郁人、ごめん。何もなかったわけじゃないんだけど。何もなかったの」

「はい? 帆乃香は何を言ってるの? 意味分からねー」

「だからさ、要するに私は郁人のことが大好きだってことだよ」

「・・・・そんなこと、分かってるよ」

久しぶりに照れた顔の郁人を見た。

その顔を見ていると、やっぱり私には郁人だけなんだなって思う。