思った以上に海人くんのマリオの声真似がそっくりで、おなかを抱えて爆笑していたら、知らないカップルに声を掛けられた。
「あなた、さっき郁人と一緒に歩いていた子よね?」
カップルの女の人が郁人の名前を出してきたから、郁人の知り合いの人なのかなって思って。
「はい。郁人と一緒にいましたけど。えっと、どなたですか? 海人くん、知り合い?」
「僕、この人知らない」
「あー、この子が郁人の弟なのね。まだ小さいじゃない。あなた、良くこの子を引き受けて花火を見に来たわね。郁人は相変わらずなのね」
ちょっと待って。この話って、もしかして。
この人、郁人が2年前にお付き合いしてた年上の元カノ? と、その彼氏?
「あの、失礼ですけど・・・。郁人と海人くんについて変なこと言わないでください。海人くんが聞いているじゃないですか」
この人、ちょっと失礼じゃない?
「あなた、郁人と付き合ってるの? やめておいた方がいいんじゃない? 2人だけで会えないわよ。必ずこの子が邪魔になるんだから」
その人は冷たく笑いながらそんなことを私に向かって言った。
この人の彼氏もなんかニヤニヤして話を聞いていて、なんだか気持ち悪い。
「あなたには関係ないですよね? 私は海人くんの友達なんです。あなたには理解できないかも知れませんけど、郁人と海人くんと3人がいいんです」
「はぁ? あなたもしかして郁人と付き合いたいからって弟を抱き込んだってわけ?」
「何を言ってるんですか? そもそも私は郁人よりも海人くんと先に出会っているんです。それに、その言い方は海人くんにも私にも失礼ですよ。訂正してください」
ほんと、この人失礼極まりない!
「ねーあんたさぁ。あんまり強く言わない方がいいんじゃないの? こいつ、一応俺の彼女だしさー。せっかくの花火大会だし、俺も穏やかに過ごしたいじゃん」
なに、この男。この2人、どっちもどうしようもないわ。
相手にするだけ時間の無駄。
「海人くん、行こうか。もう話は終わったみたいだし」
私は海人くんに危害を加えられないように、海人くんとその場を離れようと歩き出そうとしたけど、男に腕を掴まれて無理やり引っ張られた。
「きゃっ! 何するんですか。離してください!」
「ねー、このまま逃げられると思ってるの? 俺の彼女に酷い言い方したよね? それは見過ごせないよね」
「酷い言い方をしたのはあなたたちでしょ。腕を離してください」
「帆乃香を離せよ」
そう言って海人くんが男を押したら、私の腕を掴んでいない方の手で男が海人くんを突き飛ばした。
突き飛ばされても体幹が鍛えられているだけあって、海人くんが転ぶことはなかったけど、海人くんが怪我をするところだったよね。
「本当にやめてください。痛い」
私の腕を掴む力が強くなって、腕がとても痛くて。
怖いけど、海人くんを守らなきゃ。
でもどうしよう。
男の手を振り払おうとしていたら、ドスッという鈍い音とともに男が私から手を離し、お腹を押さえてうずくまった。
一体、何が起こったの?



