「帆乃香、その荷物は?」
「これね、3人で食べようと思ってアイスケーキを買ったの。海人くんが帰ってきたら食べようね」
「うん、ありがとう。俺が持つから、それ貸して」
郁人はいつも私の荷物を持ってくれて、とても優しい。
かっこよくて、強くて、優しい郁人。
何も無い私には本当にもったいない彼氏だなって、思う。
「こんな私が隣にいて、ごめんね」
小さな声で呟いた。
「ん? 何、帆乃香」
「ううん、なんでもない。荷物持ってくれてありがとう」
私も郁人に負けないくらい優しい人になりたい。
もっと郁人に好きになってもらえるような人に。
郁人の自宅は私の使う駅から3つ先の駅で、駅から歩いてすぐの所に建っている洋風の大きな家だった。
「ここが俺の家だから。はい、どうぞ入って」
郁人が門を開けてくれて、玄関まで案内してくれる。
「お邪魔します」
私は玄関から郁人のおうちの中へ恐る恐る足を踏み入れる。
私、なんだか場違いなところに来ちゃったような気がする。
「どうしたの? 上がって」
「うん」
私は郁人の案内でリビングに通されて、
「ソファーに座ってて。冷たいもの持ってくるね」
「ありがとう」
私はソファーの端っこに座り、広いリビングを見回した。
リビングには大きな暖炉があり、その上に写真が何枚も飾られている。
私はその写真の前に行き、一枚一枚を見せてもらった。
小さい郁人の隣には郁人に似たお父さんと、優しく微笑んでいるお母さん。
別の写真は海人くんと思われる赤ちゃんを抱っこしている優しそうなお母さん。
どの写真も愛が感じられる家族写真だった。
「帆乃香、お待たせ」
「あ、郁人。ごめん、写真見せてもらってた」
「ああ、何年も前の写真だよ。海人って俺の小さい頃にそっくりだろ。笑えるよな」
「うん、本当に郁人に似てる。さすが兄弟だね。この人はお母さんでしょ? 優しそうなお母さんだね。早く会えるようになるといいね」
「帆乃香・・・」
「ん?」
すぐ後ろから名前を呼ばれて、郁人の方に振り向こうとしたら後ろから郁人がハグしてきて。
「帆乃香、どうして ”こんな私が隣にいてごめん” なんて言うの?」
「えっ? あ・・・。さっきの聞こえてたの?」
「ねえ、どうして? 俺、こんなに帆乃香のこと想ってるのに。帆乃香は俺のこと好きじゃないの? あんなこと言われたら俺、帆乃香がどこかへ行ってしまうんじゃないかって不安になる」
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなくてね。強くて、優しくて、郁人はかっこいいから。郁人に比べて私は何も無くて。私にはもったいない彼氏だなって思って・・・。」