泣き疲れた私はそのままロビーのソファーで郁人に抱きしめられながら眠ってしまったみたいで。

周りが騒がしくて目を覚ました。

んーっ体が痛い。変な格好で寝てしまったんだ。

隣を見ると郁人も私を抱きしめたまま寝ていて。

「お前ら! 何やってんだよ。島田!! 上野!! 起きろ」

その声ですっかり目が覚める。

「あれ? 奥原先生? もう朝なの?」

奥原先生の後ろに数人の生徒もいて。

私はこの状況を理解して慌てた。

「やっ、やだ! 郁人! 郁人ってば、起きて」

「んー・・・。帆乃香ぁ?・・・好き」

いやいや、ちょっと! それダメだって! 皆の前だから!

私は郁人の胸をバシバシ叩き、目を覚まさせた。

「痛いって。なに、帆乃香。」

「郁人、起きてよ。皆が見てるし」

そんな私たちを見かねた奥原先生が、

「昨日の今日で、上手く纏まりやがって。ま、良かったよ。つーか、早く支度をしてこい! 朝食の時間だぞ!」

「郁人、行こう。ほら、早く」

郁人の手を引っ張って、ロビーから逃げるように郁人を連れ出して、一旦それぞれの部屋に戻った。

そんな私たちの様子を見ていた子たちが、大人しくしているはずもなく。

私たちのことは瞬く間に皆に知れ渡ってしまって。

私と郁人がそれぞれの部屋に戻り、準備を終えて朝食会場に行くと、早速有希がやってきて

「帆乃香、聞いたよ。島田と付き合うことになったんだね。おめでとう!」

「えっと、ありがとう。それ、誰にどう聞いたの?」

「朝、ロビーで抱き合って眠ってたって? それを見た子が何人もいるみたいだし。本当に良かった。私は2人が両想いだって分かっていたから、すごくじれったかったんだよ」

「そうなの? 両想いだったなんて、昨日初めて知ったんだけどな」

「あなた達は奥手すぎるのよ。もう高校3年生なんだからさ。あ、でもこれは帆乃香の初恋だもんね。仕方ないか。ちゃんと島田にリードしてもらいなね」

有希は最初から全てわかっていたよ、と自慢げに話している。

「こんな風に相手を想う気持ちって初めてだけど。お付き合いするのは初めてじゃないし」

なんてブツブツ言ってたら、いつの間にか後ろにいた郁人に頭を叩かれて。

「帆乃香って付き合ってたヤツがいんの? ね、お友達の有希、教えてよ」

郁人が私ではなく、なぜか有希に質問している。

「えっ? 私に聞くの? 帆乃香本人に聞けばいいじゃない」

「だって教えてくれなそうだし。俺、帆乃香から聞いたら妬くしさ」

「島田って、デレすぎじゃない? 勝手に妬いてろ!」

有希はあきれて私たちから去って行った。