休憩が終わるギリギリまでロビーで過ごしていると、同じ英語クラスを受講している女の子に声を掛けられた。
「3組の上野さんだよね? 私、1組の谷口美奈って言います。はじめまして」
「あ、はじめまして。上野帆乃香です」
うちの学校は1学年8クラスあって、クラスが違うと全然知り合いにならない。
それでもこの谷口さんは綺麗だと噂になっている人だから顔だけは知っていた。
それにしても間近で見ると本当に美人さんだな。目なんて私の倍くらい大きくて吸い込まれそう。
そんな美人さんが私に話し掛けてくるなんて、どうしたんだろう。
「あの、聞きたいことがあるんだけど。上野さんって島田くんと付き合ってるの?」
「えっ? 島田くんと、私?」
「そう。毎日島田くんと一緒に帰ってるでしょう? だから付き合ってるのかなって思って」
どうして初対面の人から郁人の質問をされているの? もしかして、谷口さん・・・。
「私、島田くんとはお付き合いしてないよ」
「じゃあなんでいつも一緒に帰っているの? 彼女みたいじゃない」
谷口さんは郁人のことが好きなのかな。
一緒に帰っている本当の理由は言えないから。なんて説明したらいいんだろう。
「えーっと、一緒に帰っているのは・・・。帰る方向が一緒だから?」
「は? 方向が一緒の人なんて他にも沢山いるじゃない。私だって同じ方向の電車なのに。本当にそんな理由だけ?」
「うん、はい。そうです」
綺麗な人の強い口調は怖い。私が何か悪いことをして怒られてるみたいだよ。
「島田くんのことを想っている子たちがあなたたちをどんな気持ちで見ているか、分からない?」
「それは、そうだよね。ごめんなさい、私・・・。」
「上野さんって島田くんのことが好きなの? 告白したうえで島田くんと一緒にいるの? 告白もしていないで一緒にいるなんて、ずるいわよ」
谷口さんは腕組みをして私を見下ろしている。
「それにあなたがいつも島田くんの側にいるから告白したくてもできない子がいるんだよ」
郁人のことを想っている子。その想いはきっと私と同じで。
もし郁人が私じゃない人と一緒に帰ったりしていたら、もしそれを目の前で見たら、そう考えるだけで胸が締め付けられるほどに痛い。
そんな思いをしている子がいるんだ。
そうだよね。どうして気付かなかったんだろう。
私は郁人の彼女でもなんでもないのに。
告白もしてないのに郁人と一緒にいるなんて、本当にずるいよね。
「谷口さんの言う通りだよね。私、そこまで気が回らなかった」
「分かってくれたらいいの。本当に島田くんとは付き合っていないのね。嘘だったら許さないから」
谷口さんは最後まで怖い口調で私に釘を刺すと、先に英語クラスに戻って行った。