翌日はあいにくの雨。

お昼休みに外でお弁当を食べようと思っていたのに、これじゃ教室で食べなきゃならない。

郁人と2人で机を並べてお弁当を食べるなんて、無理。

無理なんだけど・・・。

「上野さん、俺そっちの席に行くわ」

なんて郁人が言いながら私の隣の人の席に座る。

有希には昨日のうちに郁人とお昼を食べるからって断っておいたから、有希は他のクラスに行ってしまったし。

郁人のその行動を、クラスの皆が目で追っていて。

クラスの女子からは、

「やっぱりあの二人、怪しいよね」

なんてコソコソ言われても、それを気にしているのは私だけで。

郁人はそんな噂話なんて全然気にしていない。

「島田くん、これ食べる?」

私は郁人用に作ったおにぎりをそっと差し出してみた。

「これね、ラップで包んで握ったから。ほら、他人の作ったおにぎりとか食べるのがイヤな人っているでしょ。もし郁人が無理だったら遠慮してくれて大丈夫だからね」

本当はお弁当を作りたかったんだけど、それじゃカレカノみたいで郁人に迷惑かもなって思って、おにぎりにしてみた。

おかずは私のをつまんでもらうつもりで一つだけしか作ってこなかったけど、しっかり中身は2人分。

郁人の昼食はいつも菓子パンや調理パンだから、こうして手作りのお弁当もたまにはいいかな、って思ったんだけど。

「うわ、マジでいいの? 帆乃香が作ってくれたおにぎり、イヤなんてことないよ。嬉しい。ありがとう、帆乃香」

「し、島田くん、名前! 帆乃香って言ってるよ」

小さい声で郁人に気付かせる。

「ああ、そうか。つーか、面倒くさい。今だけ帆乃香でいいじゃん」

「そうだね、じゃ今だけね、郁人」

学校の中での名前呼びが新鮮で、2人で微笑み合った。

「良かったら、おかずも食べて。多めに作ってきたから。一緒に食べよ。はい、お箸」

「お箸、要らないよ。はい、あーん・・・」

「郁人、それは無理! ダメだから!」

私の顔はきっと真っ赤で。郁人はそんな私を見て楽しんでいる。

「あははっ! 帆乃香の顔! ヤバいな、その顔」

「なっ、なによヤバイ顔って! 失礼な!」

「俺の言うヤバイは、可愛いって意味だよ」

郁人との距離が縮まったのは嬉しいけど、こんな風にからかわれることも時々あって、その度に本気なのか冗談なのか区別がつかなくて、悩むよ。